「親族間売買」と住宅ローン

銀行での対応は難しい「親族間売買」の住宅ローン

一般的な銀行では原則として、親族から購入する不動産に対する住宅ローンを取組対象外としています。

一部の都銀やネットバンクで、売買価格や事情次第では受付ができるようですが、なかなかハードルが高いのが実情です。

その理由は、売主の資金使途、物件価格の妥当性(担保評価)、税務面の対応等、不透明な点が多く伴う為です。

唯一対応可能な【フラット35】

住宅金融支援機構は従前の【フラット35】の規定を変更し、夫婦や同居親族に対する制限はあるものの、第三者としての不動産会社が作成した「売買契約書」「重要事項説明書」、もしくは不動産鑑定士が作成した鑑定書等で物件の客観的な価格の評価が確認できるものがあれば、審査対象とすることができるようになりました。

親族間売買の場合は、契約書類を省略するケースが多いのですが、住宅ローンを組むにあたっては、契約の意思確認や売買金額の取り決め内容、物件について特別な要因がないか、それぞれの書類で確認します。媒介手数料がかかったとしても、不動産会社を通して書類を作成してもらうのが無難です。

親族とは

親族の定義は、民法725条に定める「親族の範囲(配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族)」が基準となります。

親族間売買が敬遠される理由

親族間売買とは、現在住んでいる土地建物を、親子や夫婦、他の親族の間で売買することで、いわゆる身内で売り買いすることです。

  • 売主の他の債務の返済のため、親族に買い取ってもらう目的

➡ 不当に高い金額で売買される懸念がある。

住宅ローンを扱う側の金融機関が最も懸念するパターンです。親族間で保有不動産を売買しようとする目的の多くは、所有者が任意売買により売却資金を必要としている場合であり、売買価格は市場価格と乖離しがちです。

  • 離婚する予定だが、所有権を買い取って住み続けたい

➡ 離婚後の安定的なローン返済ができるかが懸念される

  • 相続税対策のために不当に安く売却したい

➡ 贈与税を安くできても、それより高額な譲渡所得税が発生するおそれがあります。いずれにしても税務上、違法行為となる懸念があります。

売買価格 > 市場価格 〈譲渡所得税〉

親族間で売買する金額が、客観的な時価とかけ離れている場合、特に市場価格を上回っている場合は、売主に対して「譲渡所得税」が課税されるおそれがあります。また貸し手金融機関としては担保評価上のリスクを抱えてしまう可能性があります。

売買価格 < 市場価格 〈みなし贈与〉

親族間で売買する金額が市場価格より低い場合、差額は「みなし贈与」とされて買い手側が課税対象となる可能性があります。

住宅ローンを組む組まないに限らず、親族間売買をする際の価格設定は下記を目安にするのが無難と言われています。

・低めの売買金額にするとしても、許容範囲は市場価格の80%以内

 市場価格は、公示地価(国が定める)、基準地価(都道府県が定める)を参考にします。

標準地・基準地検索システム~国土交通省地価公示・都道府県地価調査~ <検索地域選択(都道府県)> (mlit.go.jp)

・親子間の売買金額は相続税基準に合わせる

親子間の売買の場合は、いずれ相続される場合の評価基準(路線価)を参考にするのが無難です。

通常の不動産取引で路線価が参考にされることはありませんが、親子間の取引であれば、いずれにしても相続税の課税評価が最低基準になるためです。

財産評価基準書|国税庁 (nta.go.jp)

【フラット35】にみる融資の条件

【フラット35】の融資審査では、親子間で売買契約を締結しており、かつ、所有権移転登記の登記原因が売買となるものはご融資の対象になる場合があります(直系親族間及び兄弟姉妹間の売買も同様です。ただし、申込人が申込前に購入物件に既に入居している場合で、次の①または②に該当するときは、融資の対象になりません。
また、夫婦間の売買は融資の対象になりません。

① 融資対象住宅に売主及び買主(申込人)が同居しているとき(現入居者間の売買)。
② 融資対象住宅に売主は居住していないが、申込人が売主から使用貸借しているとき。

親族間売買住宅ローンの取り組み例

・ 親から子への相続発生前に売買契約をすることで、事前に相続権利人に資金の分配ができ、買い取った子供が住み続けることができる

・ 親名義の空いている土地に住宅を建てたいが、相続となってからだと土地家屋全体の分配が必要になり兄弟姉妹間のトラブルになる可能性がある。親が生前の間に空いている土地だけの名義を自分のものにしたい。

・ 親が田舎暮らしを望んでいるので、子が土地家屋を買い取り、移住資金としたうえで子がそこに居住する。もし親が移住先から帰るとしても受け皿として住居を残しておける。

親族間売買は、身内同士での契約であるがゆえに、決めることは簡単ですが、いざ買い手が住宅ローンを組んで購入するとなると非常に困難な壁がいくつもあります。

返済資金の見通しはもちろんのこと、税務面、兄弟姉妹との合意など、しっかり確認した上で売買契約を進めましょう。

A.B.I staff-EBINA

【フラット35】取扱金融機関代理店/A.B.I(株) 金融法人部 所属スタッフ 

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